100年前、100年後。
およそ100年前。昭和の初め。多くの人が日本ではまだ『きもの』を着て生活し、その着方も、現代のような着方だけでなく、高貴な人は室内では羽織った着物を「御引き摺り」という、着物の裾を引きずるように着る習慣が残っていました。
そんな時代の着物を初めて手にした時の驚きは今でも忘れることは出来ません。シルエットとしての着物の形は確かに変わりはないのですが、柄の付け方が明らかに違うのです。左右対称に、右も左も同じ様な豪華な柄が配置され、裾の裏側の裾回しにまで豪華な柄が入っているのです。 そして、絹の質も、軽やかで柔らかで、張りがあるけれどもしっとりして、羽織ってみると身体にそってしなやかなドレープを描く、その落ち感に惚れ惚れしました。
それが100年以上前の着物だとは、その時は知りもしなかったのですが、その後、着物について様々な事を学び、その形の柄付けがされた着物が100年前までしか作られていなかった事を知ったのです。そして、その形の色留袖が、華族や貴族の方々にしか着用が許されていなかった事も知りました。
時は移り、その「御引き摺り」の風習は廃れ、現代の様に身体に巻き付けて着用する着方が主流となり、右衽にも左衽にも均等に描かれていた柄が上前(左衽)から流れるように下前(右衽)へと下がっていく柄付けが主流となりました。そして、裾の裏側の裾回しにまで描かれていた柄も、描かれなくなりました。裾を引き擦る優美な着方は好まれなくなっていきました。もうこの形の着物は、その使命を終えてしまったのです。
もともと留袖という着物は、日本女性の第一礼装で、滅多なことでは着ない大切な着物です。それは100年前でも現代でも変わらない決まり事です。ですが、勿体ないからと言って、箪笥にしまいっぱなしにしてしまうのは、現代の私たちにとっては、「もっと、勿体ない」ことの様に感じられます。
せっかく先人達から受け継いだこの財産を、今の私たちが使えるようにしたいと思い、和裁職人の力をお借りして作り上げたのが、私どものジレストールです。
100年前から伝わる美しい布を、100年後まで使えるように。
それが紬屋瑠璃猫の会社としての使命だと思っています。