家紋のこと

瑠璃猫では黒留袖を多く取り扱っています。
黒留袖は裾に豪華な模様がありますが、上半身部分には家紋だけが入っている婦人の第一礼装です。

日本の家紋は西洋の紋章とよく「似ている」と、評されます。確かに、西洋の紋章はその家柄を表す物として、とても日本の家紋と似ています。

しかしながら、西洋の紋章はあくまでも貴族のもの。一市民であっても家紋があるのは多分日本だけかと思います。

もちろん、日本の家紋ももともとは貴族の物でした。

その始まりは平安時代頃、貴族達が自分の家を表す印として牛車などに付けたものが始まりと言われています。そして、貴族だけでなく、戦国の世になれば武士たちもこぞってその印を旗や陣羽織などに付けて権勢を誇りました。こうして、日本の家紋は貴族や武士に広まり、代々伝えられます。伝えられるその時には本家はもちろんそのままの形が伝わりますが、分家などすると本家の紋を少し変更して継承します。そのため、分家の紋の方が本家の紋よりも少し装飾が多く、逆に華やかに見えることもあります。

こうして広がっていった日本の家紋は、明治維新後に全ての人に苗字が許された事によって一般の家にも定着しました。

このように、ほぼすべての家に家紋を持つ日本人ですが、これだけ家紋が広がったのは、そのデザイン性によるものではないかと考えています。

例えば西洋の紋章は、かなり複雑で細かいライオンや一角獣などが描かれていて、これを正確に描き表すことは大変難しく思われます。

ただし、そもそも西洋における紋章は

『紋章にある図形、主に具象的な対象を表現してコモン・チャージを描く場合に、紋章記述の解釈の仕方や暗黙の規則について理解している必要はあるが、それを簡略化した幾何学的なデザインで描いたとしても、写真のように写実的なデザインで描いたとしても、それと間違いなく認識できればどのように描いても良いということである。

ウィキペディア参照(紋章 - Wikipedia 作成・描画)と、あるように実はかなりデザインにおいてはあまり決まりがないのだそうです。つまり、例えば簡略化されたライオンが描かれていても写真のライオンが張り付けてあっても、どちらでも良いのです。

そこにあるのはデザインと言うよりも、図像学とでも言うべき画像です。

それに対して日本の家紋は、どの家紋であっても二次元的にすっきりと、黒地に白で染め抜く基本的な使い方に適したようにデザインされています。

そして、驚くべきことに、日本全国どこの呉服屋さんで紋入れを注文しても例えば「丸に三つ柏を」と注文すれば同じ紋を入れる事ができるようになっているのです。これってかなり凄い事なのではないでしょうか。もちろん、紋を入れる職人さんである「紋屋」さんが「紋帳」と言うデザイン帳を持っているから、と言うのもありますが、基本的な紋の意匠が統一されている為でもあります。

「三つ」と言われたら中心点から時計の針で12時、4時、8時の方向にモチーフが配置されますし、「互い(たがい)」と言われたら2つのモチーフがX状に交差したものですし、「抱き(だき)」は2つのモチーフが左右対象になります。

このように、紋の名称は読んで字のごとくに、紋の図柄を表しているのです。

またその簡略化したデザインが、かなり完成されているのも特徴で、そこが日本の家紋文化が各家々に浸透した理由の一つなのではないかと思われます。そして、そのすっきりと簡略化され、完成されたデザインを日常の中で常に見ているおかげで、日本人のデザイン感覚は養われているのだと思うのです。

そこで暮らしているだけで自然と身につく美的センス。

私たち日本人は四季折々の自然の恵みと、先人たちが磨き上げてくれたデザイン性の高い形を日々目にしている環境にいるのです。その事を有難く、誇りに思ってこれからも暮らしていきたいです。